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東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)282号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

1 成立に争いない甲第二号証(昭和六一年一二月一九日付け手続補正書中の全文訂正明細書。以下「明細書」という。)によれば、本願発明の技術的課題(目的)、構成及び効果は、次のとおりと認められる(別紙図面参照)。

(一) 技術的課題(目的)

本願発明は、内部にPin接合を形成している半導体層を用いた光電変換半導体装置の改良に関する(第二頁第七行ないし第九行)。

従来の内部にPin接合を形成している半導体層を用いた光電変換半導体装置の半導体層は単結晶半導体で構成されているが、単結晶半導体から成る半導体層の製造は比較的大きな困難を伴い、光電変換半導体装置を廉価に提供し得ないとの欠点がある。本願発明の目的は、前記欠点がない新規な半導体層を用いた光電変換半導体装置を提供することにある(第二頁第一〇行ないし第三頁第五行)。

(二) 構成

別紙第一図面の第1図は本願発明の一例を示すもので、1は、絶縁基板本体3上に導電性金属から成る電極層2が形成されている導電性基板であつて、その上、すなわち電極層2上に、内部にPin接合を形成している半導体層4が形成される(第三頁第六行ないし第一五行)。

半導体層4は、別紙第一図面の第2図に例示されているように、電極層2側のn型非単結晶半導体領域n-N-SC1(エネルギバンドギヤツプEg1を有する。)、これと反対側のp型非単結晶半導体領域p-NSC2(Eg1より広いエネルギバンドギヤツプEg2を有する。)、p-N-SC1とn-NSC2との間のi型非単結晶半導体領域i-NSC4(Eg1より広いがEg2より狭いエネルギバンドギヤツプEg4を有する。)、i-NSC1とn-NSC4との間の非単結晶半導体領域j-NSC5(ヘテロ接合として作用する。)及びp-NSC2とi-NSC4との間の非単結晶半導体領域j-NSC6(ヘテロ接合として作用する。)を有する(第三頁第一六行ないし第四頁第一六行)。

非単結晶半導体領域n-NSC1、p-NSC2、i-NSC4、j-NSC5及びj-NSC6から成る半導体層4内には、再結合中心中和剤として、水素(重水素を含む。)又は塩素、臭素等のハロゲン元素が一~二〇〇〇mol%、特に一〇~五〇mol%導入されている(第七頁第八行ないし第一四行)。

非単結晶半導体領域p-NSC2は、非単結晶Sixcl-x(0.5<x<1)で表される珪素の炭素化物から成り、そのエネルギバンドギヤツプEg2は一・五~二・五evの値を有し(第六頁第六行ないし第一一行)、かつ、その内に硼素(B)が高い不純物濃度で導入されてp型を呈している(第七頁第一九行ないし第八頁第一行)。

(三) 効果

前記のように非単結晶半導体領域p-NSC2は高い不純物濃度で硼素(B)を導入したp型であるが、その硼素(B)が熱によつて非単結晶半導体領域j-NSC6を通つて非単結晶半導体領域i-NSC4に多量に拡散し、非単結晶半導体領域j-NSC4のi型性を劣化させるおそれが考えられる。しかしながら、非単結晶半導体領域p-NSC2がSixcl-xで表される珪素の炭素化物であるため、硼素(B)が非単結晶半導体領域i-NSC4に拡散することを有効に阻止する。ちなみに、非単結晶半導体領域が珪素の炭素化物以外の材料、例えばSiである場合は、硼素(B)を阻止する効果は少ない(第一五頁第一〇行ないし第一六頁第三行)。

以上のとおり、本願発明の半導体層4は非単結晶半導体によつて形成されているので容易に形成することができ、したがつて、光電変換半導体装置を容易に製造することができるので、同装置を廉価に提供し得る特徴を有する(第一七頁第一八行ないし第一八頁第五行)。

2 原告は、右認定の本願発明の効果のうち、非単結晶半導体領域p-NSC2が珪素の炭素化物であるため過剰の硼素(B)が非単結晶半導体領域i-NSC4に拡散することが阻止されi-NSC4のi型性を劣化することがないとの効果を挙げ、各引用例には珪素の炭素化物のこのような特性が開示されていないから相違点<1>に係る本願発明の構成を予測することは困難であつたと主張する。

この点について、被告は、本願発明の右効果はそれが明細書に記載されるに至つた経過から明らかなとおり発明の構成から付随的に生ずる効果にすぎないと主張してその顕著性を争つているが、発明の効果を明らかにする明細書の記載が手続補正によつて初めて追加されたとの一事のみをもつて右効果の顕著性を否定し得るものでないことは当然である。

しかしながら、光電変換半導体装置の半導体層のうち光が入射される側の第一の非単結晶半導体領域の材料に珪素の炭素化物を採用することが、同領域における光の無益な吸収を減少させるとの観点から容易であつた以上(このこと自体は、原告も明らかに争つていない。)、そのようにして構成された第一の非単結晶半導体領域が第二の非単結晶半導体領域のi型性劣化を防止するという効果を併せ有するとしても、発明の構成そのものに変るところはないのであるから、第一の非単結晶半導体領域の材料に珪素の炭素化物を採用することの容易性を左右するものでないというべきである。

したがつて、相違点<1>について、第一の非単結晶半導体領域における光の無益な吸収を減少させるとの観点からその半導体材料に公知の珪素の炭素化物を採用することには格別の困難があつたとは認められないとした審決の判断は正当であつて、審決にはその結論に影響を及ぼすような違法は存しない。

三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当であるからこれを棄却することとする。

〔編注1〕本願発明の要旨は左のとおりである。

内部にpin接合を形成している半導体層を有する光電変換半導体装置において、前記半導体層が、

光の入射される側の第一の非単結晶半導体領域と、

該第一の非単結晶半導体領域と、光の入射される側とは反対側で連接している第二の非単結晶半導体領域と、

該第二の非単結晶半導体領域と、前記第一の非単結晶半導体領域とは反対側で連接している第三の非単結晶半導体領域とを有し、

前記第一の非単結晶半導体領域が、硼素を高い不純物濃度で導入していることによりp型で成り、かつ、珪素の炭素化物で成り、

前記第二の非単結晶半導体領域が、i型で成り、かつ、珪素を主成分とした半導体で成り、

前記第三の非単結晶半導体領域が、n型不純物を高い不純物濃度で導入していることによりn型を有し、

前記pin接合が、前記第一、第二及び第三の非単結晶半導体領域で構成され、

前記半導体層内に、水素又はハロゲン元素が再結合中心中和剤として導入されている

ことを特徴とする、光電変換半導体装置(別紙図面参照)

〔編注2〕本件における図面は左のとおりである。

別紙図面

<省略>

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